|座敷探索
──月も日も沈んだ夜。
何かを“覗く”と、その“むこうがわ”から怪異を呼び寄せてしまう。
怪異制圧のため、国の君主──祭司によって設営された国唯一の軍事組織、紫微衛府。
それを構成する、月代と呼ばれる術師たち。
彼らについては、その顔、出自、閲歴……素性と言えるもの全てが伏せられており、人間なのかどうかすらもはっきりとしない。
人々は謎の多い彼らに懐疑の目を向けると同時に、その神秘的な力と在り方に畏怖の念を寄せてもいた。
|召集
街の外れにある料亭、稲葉屋。
旅館としても営業するそこに怪異が発生したとの伝達があった。
居合わせた月代が対処し切れなかったということで召集されたのは、紫微衛府遊撃隊与過班。月代の中でも随一の能力使いたちである。
|探索
料亭の中に足を踏み入れてしばらく。
荒らされた座敷の隅で彼らが見つけたのは、人を食べる怪異の姿だった。
球体状に纏った大量の札と、隙間から覗く赤い瞳。
思わず槍を構えた鎮解に、その目玉がギョロリと動いた。
|戦闘
月代は、鐘の音のようにも笙の音のようにも聞こえる美しい声によって、ものを生み出し、道理を変える。
中でも能力の高い遊撃隊員たちは、細やかな出力調整を得意とする。
風の中から雷を呼び、夜の空から火の鳥を呼び、
緻密な計算と調整による鮮やかな術は、目立った攻撃手段を持たないこの怪異を倒すには十分だと思われた。
だが、取り残した札を依代にして何度でも体を作り直してしまう怪異に、与過たちは手間取ってしまう。
|真名
「これじゃ埒が明かないね」
「……兄様と丁明で、どうよ?」
巳定と鎮解が怪異の動きを封じている間に、与過と丁明は、怪異を構成する気と真逆の音──真名を探り、その存在自体を相殺しようとする。
|邂逅
夜明け。夜警を終えた与過班は班に与えられた屯所に帰る。
屯所では彼らに充てられた日代が待っているのだが、今日はそこに見知らぬ顔が混ざっていた。